2017年12月27日水曜日

病理診断を学ぶ 〜 骨軟部領域

2022/07/03 掲載されている本について情報をアップデートしました.

あまり改訂と呼べるような内容の本はない印象.

2021/05/05 掲載されている本について情報をアップデートしました.
* 新刊本の更新程度です.腫瘍について genetic な情報については常に更新されるのでどの本をとっても最近とは言えません.とりあえずなるべく新しい本を見るのが良いと思われます.

骨軟部領域ははっきり言って日本語の本が少ない,とても少ない.日本語の本もあるにはあるけれども,かなり限定的で悪性腫瘍しか扱っていないだとか記載が少ないだとかで詳しく調べるには不向き.さらに非腫瘍性骨関節疾患に至っては一冊しかない,しかも絶版.

そういう behind な状況の中でおすすめされるのはやはり洋書になる.非腫瘍性骨関節疾患,骨腫瘍,軟部腫瘍の順に本を提示していく.

Orthopaedic Pathology (2009)

非腫瘍性骨関節疾患の代表的な教科書の一つ.そもそも非腫瘍性骨関節疾患は非特異的な所見が結構多くて臨床病理相関が極めて重要.もっというとレントゲンをある程度読めないといけないことと,整形外科の疾患について(Perthes 病とかPaget 病とか)ある程度知識がないと読み進めるのは難しい.

他には

Orthopaedic Pathology (2015)
Non-Neoplastic Diseases of Bones and Joints (Atlas of Nontumor Pathology) (2011)

あたりが有名でよく書けていると思う.Non-Neoplastic Diseases of ... は AFIP のシリーズなのでこっちは比較的入手可能.

そういう知識がまず足りない人(臨床研修で整形外科的な処置に巡り会えなかったり,整形外科を回らなかった人)には

病気がみえるvol.11 運動器・整形外科 (2017)
整形外科 (国試マニュアル100%シリーズ) (2011)

あたりが有用.どちらもよく書けているので,両方とも買っても損はない.

非腫瘍性骨関節疾患の教科書は英語でもそんなに多くはなくて(細かいことを言うとあるのはあるんだけれども,腫瘍,非腫瘍を扱った本の多くは腫瘍にボリュームを割いていて,非腫瘍をメインとした教科書は少ない,ということ),あとは絶版だけど(一応リンクは張っておく)石田先生の本が超有名.

非腫瘍性骨関節疾患の病理 (2003)

この本はかなりわかりやすいと思うけれども,石田先生自体が超絶優秀な人なので(余談になるけど,大昔の病理と臨床か Pathology International には確か病理専門医試験の合格体験記が載っていたような気がする.石田先生の合格体験記を見るとすごい,at a glance),我々凡人には理解できないところもあると思われる.整形外科の教科書を見ながら勉強すること.

骨腫瘍については比較的本が多い.全部紹介してもキリがないけれども

Soft Tissue and Bone Tumours (World Health Organization Classification of Tumours) (2020)

この本はおすすめというよりも,分類学の要の本なので,骨軟部腫瘍を専門にするのでなければ最低でもすぐ見れるところにおいておけば良いと思う.専門的に見ようと思うのであれば是非購入すべき.

Dorfman and Czerniak's Bone Tumors, 2e (2015)

骨腫瘍のかなり大きなテキストで,ボリュームは多いけれども,比較的地に足の着いた記載があるのが特徴(悩ましいときも素直に悩ましいと書いてある).初めて見る疾患はここらへんまで調べれるとよい.

Diagnostic Pathology: Bone (2021)

Amirsys 社の箇条書きシリーズ.このシリーズは骨に限らず他の巻もそうだけど,名だたる執筆陣を確保していて素直にすごいと思う.値段が爆高なのが困るけど.今回からちょっとだけど非腫瘍性骨関節疾患が入ってきており,少し充実している.

Practical Orthopedic Pathology: A Diagnostic Approach: A Volume in the Pattern Recognition Series, 1e (2015)

この本は実は読んだことがないけれども,有名な pattern recognition series の一つ.改訂される気配がない.

日本語の本では石田先生の本がとても良く書けている.

骨腫瘍の病理 (2012)

ただ,これ残念なのが前回の WHO が改訂される直前に出た本であること(ただし良悪性を含めて本質的に変わるものではないし,controversial なものは適宜言及されているので実際には問題ない).

軟部腫瘍について有名なのは

Enzinger and Weiss's Soft Tissue Tumors: Expert Consult: Online and Print, 6e (2019)

だけど,これ診断名が微妙に WHO と異なっている(これはもう完全に流派の違い,どちらでつけても問題はないと思うけれども,一応 WHO に従ったほうが無難).消化管,軟部腫瘍で有名(最近 Rosai and Ackerman Surgical Pathology を書いた)Goldblum 先生が editor をしている.

Modern Soft Tissue Pathology: Tumors and Non-Neoplastic Conditions (2016)

GIST で有名な Miettinen 先生も軟部腫瘍について本を書いている.なんとなく,Enzinger の方が詳しい気がするけれども,多分 Enzinger は多くの病理検査室に常備してあるので,自分で買うのはこっちにしても良いかも.内容は Enzinger とそんなに変わらないけれども,写真は若干小さい.どれか一つと言われたらやっぱり Enzinger にはなるけれども.ちなみにやっぱり GIST については手厚い記載がなされている.

Biopsy Interpretation of Soft Tissue Tumors (Biopsy Interpretation Series) (2015)
Practical Soft Tissue Pathology: A Diagnostic Approach: A Volume in the Pattern Recognition Series (2018)
Diagnostic Pathology: Soft Tissue Tumors (2019)

三冊同時に提示したけれども,biopsy interpretation, pattern recognition, diagnostic pathology シリーズの一員でいずれも結構丁寧に書いてあっておすすめの本.まぁ他の本もそうだけど値段がめちゃくちゃ高いのが難点.


一番新しい本ということで.著者自体がだいたいかぶっているので,正直そんなに内容に差はない.なんだかんだいって腫瘍は WHO に集約されてしまう.

【結論】
骨軟部腫瘍は勉強しだすととても奥が深いので,あまり関わる気がなければ石田先生の日本語の本で済ませるのも一つ.そしてどの本も書いている人は同じ人だったり,同じ流派の人だったりするので,どれを選んでも多分あまり変わらないと思われる.

改訂に当たってざっと探してみたが,あまり変わりはない.結局腫瘍は WHO 分類に集約されてしまうので,本自体の個性がなくなりつつある.そのなかで唯一挙げるとすれば Dorfman は個性が光る本でちょっと古いが持っておく価値は十分ある.

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