2017年12月24日日曜日

病理診断を学ぶ 〜 解剖学,組織学

2021/05/05 掲載されている本について情報をアップデートし,いくつか追加しました.
【ここで載せている本について】 
  • 病理診断を実践するためには健全な解剖学及び組織学の知識が必要
  • 実際のところ,解剖学については細かい筋肉や神経の名前までは求められることはないものの,組織学については学生の時に習った内容以上のレベルが求められる
  • ここで紹介している本は基本的に全ておすすめできる本(★ 5 つレベル)で,これらから自分の合うものを選んで常に手元に置きながら勉強すると上達は早い,,かも!
入門組織学 (2013)

この本を侮ることなかれ.病理診断のトレーニングを始めたばかりの人(学生,研修医にかかわらず)基本的な組織学の知識が欠落していることが多い.それは自分もそうだったので特に非難するつもりはないけれども.病理診断に必要な組織学の約 80% 程度を容易に提供してくれるとても良い本.組織学の試験対策としては少し物足りないかもしれないけれども,業務をこなす上ではとりあえずこれらくらいの知識が入っていれば十分.バカにせず丁寧に読むこと.


悪くはない本.どちらかというとアトラス的な立ち位置.正常構造を知るには良いが少し内容が薄い印象.レジデントの先生に聞いてみてもうーんという感じの返事であった.バーチャルスライドを見た人はいなさそう.


Q シリーズの新組織学もなかなか悪くない本だけれども,上記の入門組織学の完成度及び読みやすさが群を抜いているので,少し色あせて見えるところ.この Q シリーズは発生学,解剖学と合わせて同じテンポで説明しているので,相互性を重視するならこの本もおすすめ.あるいは入門組織学からの二冊目として購入しても良い.

どうでもよいが,Q シリーズはたまに改訂されているようだがどこが変わったのかよくわからない.


この伝統ある本も両藤田氏が引退して執筆者が変更になってから急に今風の本になってしまった.まぁ古い本の方が味があるといえば味があったのかもしれないけれども,流石に古風すぎるのと説明が若干おかしいところがあるので改訂自体は歓迎すべきとおもう.この本は昔の本を持っている人はそのままで良くて,病理部にあれば個人持ちする必要はないと思う.基本的なこと(そもそも膠原線維ってなんだっけ?)を知りたくなった時や知らない解剖学的用語が登場した時に調べることが多い気がする.

組織細胞生物学 (2015)(洋書 Histology and Cell Biology 2019)

少しレベルの高い本.分子生物学的な知見を踏まえた,組織学の本.最初に使う本ではないけれども,(特に免疫染色のからみなどで)少し突っ込んで知りたくなった時に使う本.個人として一冊もっておくと何かと便利.

カラー図解 人体の細胞生物学 (2018)

この本は,カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版の姉妹版として発行された本で,人体に限った分子生物学について記載している.トータルで 300 ページ未満で意外と読みやすい.分子生物学の本は結構分厚かったり記述が詳しくて,挫折してしまいがちだけど,この頁数であれば,なんとか行けそう.これらの時代,病理診断には分子生物学的な知識は必要不可欠で,まず最初にレビューするには格好の本.


病理と臨床という雑誌の増刊号.この雑誌はそもそも病理医による病理医のための雑誌みたいなもので,増刊号も結構我々のニーズを満たしてくれるいい本を出している.増刊号は正直全部買ってもいいくらい痒いところに手が届く感じ.でもこういう本って本当は文光堂にお願いするんじゃなくて,病理学会が先導して積極的に出していくべきだと個人的に思っている.

話がそれたけど,この本も少しレベルが高い.実際に診断をしている最中に気になったことなどを調べるのに向いている.雑誌なので?多少の誤植があるがそこはご愛嬌.すぐ売り切れになるので早めに購入の検討を → 人気の高い本はたまに再販されることがあるようだ.


病理診断に使える,組織学のアトラスはあまりいいのがない,というのが正直なところ.なぜかというと,組織学アトラスとして販売されているものには HE 写真が少なくて特殊染色がとても多いから.我々は HE 染色を基本にして診断をしているので,例えば心筋の線維化をみるのもまずは HE 写真がほしいところ.でも多くのアトラスは Azan 染色あたりを出してこれでもか!って具合に線維化を示している.その中で「機能を中心とした図説組織学」は病理医が書いているだけあって HE 写真が多いのでおすすめ.他は本屋さんか図書館でめくりながら使いやすいものを選ぶと良い.

Histology for Pathologists は少しレベルの高い本.ある程度基本的な組織学の知識が頭に入っている前提で更にわからない病変を調べるときに有用.持っておいてもいいし,病理部にあればそれを使っても良い.

最後に解剖学を中心とした本を幾つか...


解剖学のとっかかりとして最適.ここでは病理学,病理診断を学ぶために有用な本という位置付けなので周辺の領域の本については通読を求めてはいないのだが,(一度解剖学を学んだという前提ではあるが)通読が現実的な本.難しいことを書いてあるわけではなく,いわゆる基本的な教科書の位置付け.専門家からすると入門書だが,一般の人にとっては習得すべき目標となる.

入門組織学と双璧をなす本と考えてもらって良い.まずどれかと言われると,ここからスタートすると良い.



この本はかなりおすすめ.解剖学,組織学,生理学(+生化学)を網羅し,臓器別にまとめてある.一通り概観が出来るので,とても見やすい.正直それぞれの専門書レベルに細かく載っているかと言われると微妙なところがあるけれども,それでも絵も豊富でとてもよい(もっというと講義の資料に使いやすい).


解剖学アトラスは必要.病理解剖をする時や外科材料の切り出しを行う時のオリエンテーションを確認する時に.どどたん先生にはなかなか理解しにくいがこれらの解剖学の本はしょっちゅう改訂されている.一体に何を変えようというのであろうか苦笑(細かいことを言うと,解剖学における事実自体は変わらなくても,治療法などの進歩により臨床的な意義が変わってくることはあり,それによってスポットの当たり方が変わることはよくある,それにしても改訂しすぎ).最新の版は少し高いので,1つか2つ古い版くらいであればなんの問題もなく使えるので,中古にこだわりがなければおすすめ

Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice, 42e

有名なグレイズ・アナトミー.我々病理医は解剖学の専門家ではないので,他の分野の本こそちゃんとしたものが実は必要.どういうことかというと病理診断に関する最新の知識は簡単に Pubmed や医中誌などで引っ掛けられる(∵検索ワードが簡単に思いつくから).でも解剖学に関する疑問点をうまく引っ掛けられるような検索ワードが思いつく人はそんなにいないと思う.だから病理以外の分野を調べようとすると,ちゃんとした教科書があると助かる,という話.病理診断に特化した組織学の本はいくつかあるけれども,病理診断に特化した解剖学の本は実はない.だから最後の拠り所としてグレイズ・アナトミーが一冊あるととても有用(これに関しても個人持ちの必要はないと思う).

** 解剖学の本は実際はあまり使うことはないので,必ずしも個人持ちする必要はないが,買って読むと得られるものが結構多いと思う.全て買えとは言わないが一冊くらいあるといいかも.





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